ダンボール箱に入れられた、まだ目もあいていない六匹の子犬を見たとたん、思わず声をあげて笑った。母親はスピッツなのに、足の短さも、耳の垂れ方と大きさも、毛色も、しっぽの先だけ白いビーグルの特徴を、どれもみなたずさえて、しかも、仕草が、子犬のころのフックそっくりだったのである。その飼い主はきつい目でこう言った。
「うちでは犬を、庭の奥の犬小屋に、鎖でつないだまま飼うてますのんねや。お宅の三毛犬は、いつ、どうやって、庭に入って来たんやろ。このけったいな三毛犬の子供、どないしてくれはります?」
宮本輝 作:「彗星物語」の一節より